3ヶ月で絵本が完成した。AIが取り戻してくれた創作の時間
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深夜0時23分、佐伯はノートパソコンの画面を見つめたまま、しばらく動けなかった。目の前には12ページ分の絵本データ。ストーリー、イラスト、レイアウト――すべて揃っている。
「本当に、できたんだ」
39歳、2児の母。元グラフィックデザイナー。7年前に長女を産んでから、創作らしい創作をしていなかった佐伯にとって、この瞬間は静かな衝撃だった。
佐伯が絵本作家を目指していたのは、20代の頃だ。デザイン会社で働きながら、週末にコンテを描き、公募展に応募する日々。賞は取れなかったが、充実していた。
しかし結婚、出産、育児。時間は容赦なく削られていった。夜泣き、保育園の送迎、仕事と家事の往復。絵を描く余裕などなかった。
「いつか時間ができたら」と思っていた。でも子どもが成長するにつれ、その「いつか」は遠のいていくばかりだった。35歳を過ぎた頃、佐伯は静かに諦めた。
転機は2026年1月末。SNSで流れてきた投稿だった。
「対話型AIと一緒に絵本を作ってみた。完全初心者だけど2ヶ月で形になった」
投稿者は30代の会社員。プログラミングもデザインも未経験だという。それでも、ちゃんと物語になっていた。イラストもある。粗削りだが、確かに「作品」だった。
佐伯の心が動いた。
「私にもできるかもしれない」
翌週、佐伯は無料の対話型AIサービスに登録した。プロンプトの書き方も、画像生成AIの使い方も何も知らなかった。でも、とにかく始めてみることにした。
佐伯が決めたルールは3つだった。
最初の1ヶ月はストーリー作り。対話型AIに「5歳の子どもが主人公で、友情がテーマの絵本のアイデアを10個出して」と投げかけた。AIは30秒で10案を返してくれた。その中から2つを選び、さらに対話を重ねて構成を練った。
「キャラクターの性格をもっと具体的に」「ラストシーンの感情の盛り上げ方を3パターン提案して」――AIは何度でも答えてくれた。深夜に質問しても、朝6時に開いても、いつでもそこにいた。
2ヶ月目からはビジュアル制作。画像生成AIでラフイメージを出力し、それを下敷きに自分で描き直した。完全にAI任せにはしなかった。「自分の手で描きたい」という気持ちが、佐伯の中で静かに燃えていた。
週2時間という制約が、逆に集中力を生んだ。育児の合間、仕事の合間。限られた時間だからこそ、無駄にできない。AIがアイデア出しや下書きの大部分を担ってくれたおかげで、佐伯は「本当に自分がやりたいこと」に時間を使えた。
3月下旬、12ページの初稿が完成した。
佐伯は印刷せず、タブレットで長女(7歳)に見せた。
「ママが作ったの?」
長女は目を丸くした。ページをめくりながら、声に出して読み始めた。佐伯は横で黙って見ていた。
最後のページを読み終えた長女が言った。
「ママ、これ本屋さんに置いてあるやつみたい」
その一言で、佐伯の目に涙が滲んだ。
完璧な作品ではない。プロの絵本作家から見たら粗だらけだろう。でも、確かに「作品」だった。7年ぶりに、佐伯は創作を完成させた。
佐伯がAIと作業して気づいたことがある。
AIは驚くほど速く、大量のアイデアを出してくれる。でも、それを選ぶのは自分だ。
AIが生成した10個のストーリー案の中から「これだ」と思えるものを選ぶ瞬間。AIが描いた下絵を見て「ここは自分で描き直したい」と決める瞬間。そのすべてが、佐伯自身の判断だった。
AIは道具だ。でも、とても優秀な道具だ。かつて佐伯が「時間がない」と諦めていた部分――アイデア出し、構成の試行錯誤、ラフスケッチ――の多くを、AIが肩代わりしてくれた。
そのおかげで、佐伯は週2時間という制約の中でも、創作を完成させることができた。
佐伯は今、次の一歩を踏み出そうとしている。
地域の図書館が主催する「自作絵本の読み聞かせ会」に応募した。5月中旬、子どもたちの前で自分の絵本を読む予定だ。
「怖いけど、やってみたい」
佐伯はそう話す。
7年前、佐伯は夢を諦めた。でも今、AIという道具と、週2時間という小さな時間で、その夢をもう一度動かしている。
完璧な作品を作ることが目的ではない。「いつか」を「今」に変えること。それが、佐伯がAIと一緒に手に入れたものだった。
AIは万能ではない。でも、諦めかけた何かをもう一度動かすきっかけにはなる。
週末2時間。スマホ一台。無料のAIツール。
それだけで、あなたの「いつか」も動き出すかもしれない。
この記事は HAIIA Notes からの転載です。